なんだってこんな面倒な習慣があるんだ、儀式だとか何だとか、誓うとか誓わないとか、女ってやつはとかく形式にこだわりやがる。
ウエディングドレスが着たいなら勝手に着ればいい、ケーキが食いたいなら好きに作るなり買ってくるなりして食べればいい。
パーティがしたいなら、…まあ、俺は、大勢で騒いだりすんのは好きじゃない、かといって、別に独占欲が強い方じゃないから、嫌がったりはしない…、断じて、…多分、しない。
だから…、この状況はわからない。
アリオスは、白いタキシードに身を包んだ自分を姿見で見て溜息をついた。
惚れた弱み…、なんて言葉は絶対口にだすものか、俺は、はめられたんだ。
「かわいそうだと思わないの?」
これは、あのやたら元気のいい補佐官殿のセリフ。
だいたい、宇宙の女王が結婚式…なんて、元々、転生の輪からここに生を受けたのは、確かに、あいつに会いたかったから、それも認める。
「愛してないの?」
馬鹿野郎、いや、女か、そういう事は昼日中に言うもんじゃないだろうが。
「やっぱり…男の人って体が目当てなんだ。」
…それについては心外だ、俺は確かにあいつの体は好きだ、心酔している、といったっていい、だが、それだけじゃないだろう、交わす言葉、しぐさ、初めは、…馬鹿なヤツ、そう思ってた、くるくると変わる表情、泣きそうになったと思ったら笑ったり、俺の言葉にいちいち過剰に反応してくるあいつを、かわいいと思わないはずがない、第一、そう思わなかったら、とっくにこんなところ、出て行っている。寝室での恥じらいから、ひとつひとつ仕込んでいくのも楽しみのひとつ…、って何言ってんだ俺は。
タキシードの新郎は、一瞬、ポーカーフェイスな顔を崩し、赤面した顔をおさえながらも部屋を出た。
すぐ隣の部屋に、ウエディングドレス姿の女がいる。
「…いいのかよ、前例…ないんだろ。」
ノックをして、返事もそこそこ扉を開けると、花嫁がいた、一瞬見とれたという事実を隠すかのように、ついてでたのは憎まれ口、新郎は朝から、機嫌の悪いフリをし続けている。
みずみずしい輝きを、曇らせて、花嫁が俯いた。
違うんだ、お前にそんな顔をさせたかったわけじゃない。溜息をひとつついて、長いスクライドで椅子に座った花嫁に近づく。
あーーー、もう、やめやめ、面倒な事を考えるのはもうやめだ。
「きれいだぜ。」
耳元で囁くと、案の定、真っ赤になりやがる、そんなところがとても愛しい。そう、別に、お前と誓うのが嫌なわけじゃないんだ、集まっている参列者に、この姿を見せたくない…なんだよ、結局独占欲かよ。と、苦笑してみた。
まあ、公明正大、お前は俺のモノなんだと、誓ってみるのも悪くはないか。観念して、アリオスは、花嫁を抱き上げた。
「…で?今夜は初夜って事でいいんだよな?」
赤くなった花嫁に、したたか頬を殴られた。
まあ、悪くねえか。
頬に手形をつけたまま、新郎が花嫁をかかえていく、え?作法と違う?いいんだよ。別に。
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