今宵彼の岸にて(1)

抜けるように青い空だ。
風が乾いた音をたてて一面を撫ですぎていく。
振り仰げば、屹立する無数の朽ちたエンタシス。

足元に長く伸びるその廃墟の影を眺めながら、人物は目を薄く細めた。
不機嫌な猫のような顔になる。

「ふん」

一言呟くと、長く白い、更紗のような衣装を翻した。
重みを感じさせない動きで跳躍する。
とん、と、柱頭をつなぐ横棟に彼は腰をかけた。

そのままこれまで自分がいた地上を見下ろす。
遥か眼下は乾いた砂地だ。
砂漠、といっていいのかもしれない。
文明はあったが、今は誰も住まない。

照りつける日差しに逆光となりながら、彼は風に梳かれる青い髪を押さえもせずじっと目を凝らした。
見えるのは点在する崩れかけた石造りの建物。
その間を流れる細い筋。
僅かに残る水源からの支流だ。

「・・・」

身じろぎもしなかったその瞳が、突然大きく開かれた。
袂が突風にあおられて大きく風を孕み、数枚のカードが青い空へと飛散する。
地上に舞い落ちるより先に、人物は地上の一点を目指して再び跳躍していた。

水の中の乳児を抱え上げる。
生まれたての軟く脆い体は、冷たかった。
手で支えながら、頭を逸らせて息を吹き込むと、やがて布越しに微弱な震えが伝わってきた。
人物は、少しだけ口元を緩めた。

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