(1)彼女と彼

唐突に春。
桜なんか咲いてたり、
ほかほか陽気に、
イキイキ新入生。

 「彼女」もまた、そんな新入生の一人だった。
例にもれず、文房具から新品でそろえ、新しい(しかも彼女にとってはアコガレの)
制服に身をつつみ。3年間通うことのなった、学園の門をくぐる。

 初めての電車通学。ややアナクロだが、学生カバンに、教科書もカラッポで、胸を躍らせる、なんて陳腐な表現が似合いの彼女は、利発な親友(入学式では総代をつとめる予定)にいわせると、万年春少女なのだそうな。

灰色の受験生活さえ、どこ吹く風。

ネガティブな思考なんてする事があるんだろうか?

と誰もがつっこみを入れずにいられない。

それでも不思議と周囲の人間の腹がたたないのは、

ひとえに彼女の鷹揚ともいえる、

のんびりさ加減と天使のスマイルに他ならないのではなかろうか。

さても。

コチラも春。
相変わらずの春。
やれ移動だの、新しい仕事が増えたりだの。
「彼」にとって、それは1年で最も憂鬱な季節。

 新しいヤツラにオノレのキャラを把握させ、自身の心地良い牙城を築けるのはいつだって黄金週間を過ぎる頃。

 ヨレヨレの白衣に、タバコを吹かして、無事今年も確保できた、物理準備室の主は、
職員室のざわめきを避けて、ヒトリゴゴチついていた。

 「孤独の肖像」そんなコトバの似つかわしい彼は物理教師。

 学園の生徒は女子のみで、物理科を選択できるのは、2年時から編成される理系クラスのみ。全9クラス中2クラスの中から、さらに生物と物理を見比べて、物理を選択するのは、毎学年20人前後。

 1000人近い学生中20人だけを相手にしていられるのなら、楽なものだが、そうそう給料ドロボウもしていられない。新入生の理科を他の理系教師と分担して受け持つのが、彼の悩みのタネだった。

 ひかえめに言っても、長身、涼しげな目元、いわゆるイイオトコの部類、
しかもランク位置高し。の彼を夢多き女子高1年生が見逃してくれるはずもなく。

 お定まりの狂乱の宴のあと、少女達は気づくのだ。彼はそもそも生徒を女だと思っていない。

さらに言えば、
まったくもって優しくない。

するどい舌鋒。
容赦無い師事。

 1ヶ月もたてば、彼のトコロに近づいて来るのは、理系科目の優秀な生徒だけになってしまう。だが、いくら彼が優しくないといっても、毎年毎年同じ事を繰り返す事にはさすがに嫌気がさしはじめていた。

そして、5回目の春。
バタバタと近づいて来るのは彼を迎えに来た、同僚の教師だろう。

入学式が始まる。

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