入学式は午前中。その日の午後に対面式と称して2、3年生との顔合わせがあるのが、その学園の慣例であった。
午後からの登校でよかったはずの上級生。2年生の少女が2人。
悪巧みをしている。
正しくは悪巧みでは無い。
しごく最もな相談ごとだ。
やり方に少々あざとさがある。
というだけの事で。
場所は、学園内で最も天空に近い部屋。
そこは屋上にあった。
部屋には屈折式の望遠鏡がひとつと、反射式望遠鏡がひとつ。防寒用の(?)こたつと、合宿の日だけでなく、昼休み御用達の電気ポット。お定まりの天文雑誌にまぎれて、少女漫画誌にラジカセ。12畳ほどの広さへ続く階段の入り口には数字錠がかかり、番号は顧問さえ知らされていない。
「天文部部室」それがその部屋の名前だった。
「だからね。ロザリア。このまま新入生が入らないままだと、この先1年、私とアナタの二人だけで、黒点観測や流星観測をしなきゃならないのよ。…しかも、3年生になって、ヘタをしたら…廃部になっちゃうかもしれないのよ。」
「ええ、アンジェリーク。それはわたくしもよおおおっくわかっていてよ。でも、だからといって、クラブ紹介に顧問の先生を引っ張り出すのはどうかしら?」
「何を言うのよ!テニス部だって、ソフトボール部だって、やめてって言っても毎年顧問の先生が登場しては大量に新入部員をかっさらっていくじゃない!」
「…あれは単に先生達が出たがりだからではなくって?…ステージに…上がると思うの?あの、無口、口を開けば思いやりの無いコトバの羅列。あまつさえ生徒を馬鹿呼ばわりするようなあの方に。」
「でも…。」
「でも?」
「見た目は良いわ。この学園って若い男の先生沢山いて、なおかつかっこいい方が多いけど、その中でも、遜色無い美形さんじゃないの。」
「だまっていれば…ですけどね。それでなくてもなり手の少ないうちみたいなトコロの顧問を嫌々でも着任以来すっと続けてくださってる方ですのよ?恩をあだで返すようなコトは…。」
「でも。クラブが無くなってしまったら意味ないわ。」
「第一どうやって?先生を舞台までひっぱりあげるつもりなの?」
「それに関してはちょっと策がね…。」
日は中天にさしかかる。
すでに入学式は閉会の儀を迎えようとしていた。
対面式まで、あと1時間。
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