セラフィータ(3)

「あなた、娘さんいるね? 僕より少し年下くらいの」
「当たりだ。それも占いか」
「だったら料金を取る」
にやっとチェシャ猫のような笑いを浮かべると、自称占い師の少年は石畳に広げられたカードから目を上げた。
「どこかの探偵が云ってたよね…『初歩的なことだよ』ってさ。僕もそう思うよ。そんな説明書きみたいな外見をしながら、自分のことって分からないものらしいね、実際」
「俺は、そんなに分かりやすい格好をしているのか?」
「僕から見れば誰でもそう思えるけど」
少年は初対面より少しだけこなれた様子でヴィクターを見上げた。
「カラーの糊付け。家政婦が手入れしたのだったら、即刻首にすべきだね。奥さんはいない、その理由は…云わないでおくよ。でも誰か精一杯気遣ってくれる人はいる。となると、小さな娘さんがいるんじゃないか、と感じただけ」
「そうか」
「家族がいるだけマシじゃないの? ま、僕はそんなうざったい存在はごめんだけれど」
額にかかる青銀色の髪をかきのけると、彼はぽつりとそう呟いた。そのまま何事もなかったかのようにカードへと視線を落とし、一枚をすくい上げる。
「―」
「何だ? 雷が落ちてる絵だな、建物に」
無言のまま広げられたカードを手元に引き寄せると、ヴィクターをちらりと見上げる。
「どうしたんだ」
「あなたにとっては大切なことだろうからね。…娘さんはまだ学校?」
「アンジェがどうかしたのか」
彼はやや間をおいてから、そう、と答えた。
僕のやり方は形式に当てはめるのでなく、その場に応じた内容をカードで判断するものからね。今の流れだと、主体はあなたの娘さんに置かれてると考えて良い。たぶんそう…あまりよくないカードだよ、これは。
すっと片手を差し出すと、目を細めて冷笑にも似た表情を浮かべた。
「これ以上が知りたければ代金と引き替え」
「な、…」
「云ったよね、僕は占い師だって。慈善事業じゃない」
 ヴィクターは少年を見返した。懐から十ポンドを探ると向けられた掌へと乗せる。
「結果を教えてくれ」
「外れても責任は負えないけど」
「ああ」
 肩をすくめると彼は代金を受け取り、布地をふんだんに使った袖口へと入れた。そのまま冷たい石畳からすいと立ち上がる。
「…『Tower』 危険が迫っていることを暗示するカード」
向かい合った。白地を基調としたエキゾチックな衣装が、わずかな風を帯びて翼のようにはためく。華奢に見えて結構上背があることにヴィクターは驚いた。
「後はその場じゃないと分からない。行くよ、娘さんのところへ」
有無をいわせぬ口調で伝えると、彼は手を挙げて乗り合い馬車を止めた。

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